亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…あいつは。


そう…イブはどうしたのだ。










イブは確か…話に入る前から、何処にも移動せずにずっと隣で腰掛けて待機していた筈だ。
途中眠そうに欠伸を繰り返し、隣でうつらうつらとしながら、上半身だけ四方八方にグラグラと揺れていた。

…物凄い勢いでリストの肩や背中に頭から衝突してきたのを、無意識で舌打ちしながら何度も払った。





そのイブが今………眠っている?



殺気と緊張感が張り詰めたこの部屋で呑気に寝ているとは、考えにくい。
…確かめようにも、リストの身体は背後に振り返る事も出来ず、いくら力を込めてもいうことを聞かない。

……こんな時に眠っているなど…そんな事が。






五感を研ぎ澄ますと、背後にイブの気配は感じ取れた。
…やけに静かだ。身動きする際の微かな音さえ聞こえない。
イブが後ろにいるのは分かったが、彼女が今どんな状態なのかは全く分からなかった。



訳が分からない…と困惑するリストに、ノアは再度口を開いた。













「ええ。連れのお嬢さんは気持ち良く熟睡しておりますよ。………どうやら貴方、分かっていない様ですね。………“目覚めの災い”のせい、ですよ。この災い…当の昔に始まっております」









(―――…目覚めの…災い…)

…それは確か、期日までにデイファレト王が君臨しなかった場合に起こる神からの罰…災いの名だ。

その災いが既に…始まっているだと?







「…この災いは、獣が異常な程凶暴化するという、到ってシンプルなものです。…目に見えぬ災いの影響を受けた獣は、まず短くも深い眠りにつきます。次に目覚めた時には……理性は、無し。食欲という本能に支配され、食べ物と判断すれば何にでも牙を向きます。…お外のエコー達の様にね」
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