亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ノアはそう言って、か細い指で暗闇に塗れた窓の外を指差した。
普段大人しい筈のエコーがあんなにも凶暴だったにのは、その災いが原因だったのだ。
「………まだ貴方は影響を受けていない様ですが…フューラの血が流れている事は否定出来ない事実。時間の問題でしょうよ。………ですから…お互いのためと申しているのですよ。……そんな狂犬と、大切な王子様を一緒にいさせておく訳にはいけません。………殺生ですが…貴方方には、帰って頂きます」
爽やかな笑みで勝手な事をサラリと言い放つノアに……リストは、静かに憤慨した。
ほとんど怒りに身を任せ、リストは懇親の力を込めた。
…直後、ピクリとも動かなかった腕がゆっくりと上がり…黒光りする魔法陣が浮かんだ床を勢いよく、叩いた。
大理石に爪を立て、小さな傷跡を刻んでいく。
「…まだ、動けますか。タフな方ですね―。………そうやって足掻けるのも、今の内ですよ。………そんなに帰りたくなければ、勝手にしなさい。ですが、私はこの部屋以外、城内に入れる気はありませんから。外に出るのは全く構いませんよ。窓を割って出ればよろしい。………もっとも、そこのお嬢さんが起きれば…外に出らざる得ないと思いますがね…」
………災いの影響をもろに受けているイブは、次に目が覚めた時…他の獣同様、凶暴化している危険性がある。
そうなると…身の安全のため、仲間同士の無駄な戦いを避けるために、ノアの言う通り外に出なければならないだろう。
(………じゃじゃ馬が………凶暴化…?………冗談じゃ…ねぇっ…)
どうする事も出来ない苛立ちから奥歯を噛み締めるリストに、ノアは「それでは…」と言いながらドアを開けて、ヒラヒラと手を振った。