亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


半分だけ開いたドアの隙間に滑り込む様に、ノアは廊下へ出ようとする。








………待て。


………お互いの、ため?





………ガキ共を守りたい気持ちは分かる。だが………ここに来るまでそれなりに保護してやっていた俺達に…これはどういう仕打ちだ。







………いや、問題はそこじゃない。



俺が言いたいのはな…。













待て。



待て。


待てよ、この野郎。











待て、待て、待て。




話を聞け。耳を貸せ。

こっちを見やがれっ…。




























「―――…何様、だってんだっ…!!」



















…妙に懐かしく思える自分の声は、酷く掠れていて、荒い吐息と共に吐かれた、何とも粗暴な…まるで、騒音の様だった。

絞り出したリストの叫びが、室内に響き渡る。






空気を揺るがすそれは天井に昇り、壁に反射し………最終的に、ノアの足を、止めた。











部屋と廊下の境目。


その境界線上となる位置に立つ、細身で長身のシルエットは、長い髪を揺らめかせて。











………ゆっくりと、リストを見下ろした。













…再度リストの姿を映したその目には、もはや作りものの笑みも涼しさも無く。

ただ、冷たかった。




空気を見ているかの様な関心の無い硝子玉の如き瞳が、リストをただ、見ていた。











「―――………予…言の…事を………どうして、教…え…ようと……しないっ…!!」



















血色の悪い肌から滲み出る脂汗が、頬を伝い、雫となって大理石の海に落ちる。

………もう、体力は残っていなかった。


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