亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…とうとうリストはノアから視線を外し、力無く目を閉じた。ゼエゼエと全身で荒い呼吸を繰り返す身体には、もう何処にも力は入らない。
…魔法陣は獲物を地べたに貼付けるばかりではなく、体力まで吸い取ってしまうのだろうか。
怠いだのきついだのを通り越して、半分は屍状態だ。
…瞼を閉じた途端、今までは無かった筈の睡魔が、忍び寄ってきた。
一切の抵抗力を失ったリストは、それを受け入れる他は無く…。
ああ、ヤバイ。
頭の中でそう呟いた時、リストの意識は深い深い何処か、奈落の底にも思える遥か下方に落ちていった。
静かに、音も無く、落ちていく。
…遠ざかる現実の世界の向こうからだろうか。
もはや何もかも分からないリストは…。
ノアの声を、聞いた気がした。
虚ろな、呟きが。
「―――…最後まで知りたがりやですね…本当に」
…強力な黒の魔術により深い眠りについてしまったリストに、ノアは呟いた。
今の今まであんなに苦しそうだったのに、目を閉じたその表情は何処か穏やかで…ついつい、笑みが零れた。
その隣で椅子の背もたれに寄り掛かって眠っているイブも、だらしなく涎を垂らして、実に幸せそうな顔だ。
……目が覚めたらどうなってしまっているかなど……露程も、知らずに。
―――どうして、予言を教えないのか。
ポツンと独り残されたノアの脳裏に、先程のリストの言葉が過ぎる。
……じっと…眠る二人を眺めながら、ノアは深い溜め息を吐いた。
どうして。
どうして…って。