亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…辛そうに全身で呼吸をし、吹雪に塗れていく白い吐息を見詰めるサリッサの目は虚ろで…いつ倒れてもおかしくなかった。
…時折雪に足を取られ、倒れそうになる彼女の手をとり、ザイは無言で突き進む。
半ば引きずられる様に手を引かれながら、サリッサは自分の前を歩き、道を作ってくれているザイの背中を見詰めた。
………信念を、感じる。
彼だけが持つ、彼だけの信念が、その大きな背中から滲み出ている。
…こうまで彼を尽き動かすのは、何だろう。
一体、何なのだろう。
どうしてそんなに、独りで抱え込もうとするのだろう。
過去にも、そしてこれからも自分達以外誰も通らないであろう、深い谷と隣り合わせの崖っぷちすれすれの場所を、二人は岩壁に張り付いて縫うように進む。
………ザイの歩く速度が、増した。
前へ、前へ。
ズカズカと闇を掻き拓いていく無言のザイ。
その速さに追い付けず、サリッサは何度も前のめりに倒れ込んだが…引かれる手が、サリッサを辛うじで支える。
それを繰り返しながら、ただ、進む。
「………ザイ、さんっ………もう少し…ゆっくり…」
…聞こえているのか、いないのか。
サリッサの声に、ザイから返事は無かった。
寡黙な背中だけがあるのみ。歩く速度も変わらない。
ザイの頭の中は、無音だった。
音という音は何一つ聞こえない。
あるのは、ぼんやりと浮く己の言葉の群れだけ。
個々の言葉が……ザイに囁くだけ。