亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――…このデイファレトでは、昔からある故事やことわざで『狩る者に口を利く』…というのがある。
その言葉の意味は…意味が無い、馬鹿げている。又は愚かな人、事柄を意味している。
狩る者…とは、狩人の事を指す。
狩人と口を利く。
つまり、狩人と話す事は意味が無い、馬鹿げているという事が語源となっている。
同じ国の、同じ土の上に暮らしていながら、文化も言語も何もかも違う。狩人の常識は非常識でしかない。原始的な獣じみた彼等の文化は、街の民から見れば人間以下の所業。
言葉が通じない。近付けば切られて捨てられるかもしれない。或いは、そのまま狩られて喰われるかもしれない。
飢えた獣と同類の狩人などに話し掛けて、何になる。
話など出来ないのに。
人間の姿をした獣。最下級の者。
そんなものに口を利いて、何になる。
馬鹿ではないか。
狩る者に口を利く様なものではないか。
…『狩る者に口を利く』。
古くからあるその故事は、狩人に対する中傷や非難。世間での彼等の立場を表す、一種の風刺言葉であった。