誘拐少年―Little Summer―
0.Prologue

ギラギラと照り付ける太陽が眩しくて。

ミンミンと鳴くセミがうるさくて。

じとじとと纏わり付く空気が、気持ち悪くて。

だから、だと思う。

きっとこれは、何かの罠だ。



「声、出すんじゃねーぞ」


現実味がない出来事を前に、あたしは硬直するしかなかった。

視線の先には、鋭利な光をこれでもかと主張しているナイフ。

刃渡り15センチくらいだろうか。

もしもこのナイフで心臓を貫かれたら、あたしなんてひとたまりもないだろう。

固まったままの体とは裏腹に、頭ではそんな呑気なことを考えてみたりして。



「いいか、俺の言うことを聞け。
言う通りにしなかったら…、わかってるよな?」



彼はそう言って笑った。


酷く暑苦しい夏をバックに、愉しそうに微笑んだのだ。


怖い、よりも

助けて、よりも

死にたくない、よりも

真っ先に湧いた感情が、あたしを支配して離れない。


「あの……、」


白澤 友菜(シラサワ ユウナ)
17歳、夏

あたし、誘拐されました。


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