誘拐少年―Little Summer―
1.
「なんでそんなにかっこいいのに、こんなことするの?」
湧いた疑問が、思考を通らずに口から出ていた。
無意識に、いつの間にか彼に問い掛けていた。
あたしと彼との距離は約50センチメートル。
50センチメートル先で、ナイフをかざしながらしきりに入り口のドア向こう側を気にしている。
綺麗な顔が、あたしの言葉に反応する。
さっきまでシワひとつなかったピンク色のシーツの上で、あたしはそっと目線だけで彼を見上げた。
初めて足を踏み入れたこの場所は、9割がピンクで埋め尽くされていて、なんだか凄く落ち着かない。
「……」
彼は黙ったままだ。ナイフであたしを脅しながら。
ふいに、壁の奥から女が喘ぐ声が聞こえた。
秒が進むごとに、喘ぎ声は大きさと激しさを増す。
経験がないあたしでにも、壁一枚隔てた部屋の奥で行われていることが分かってしまった。
きっと彼にも聞こえていると思う。
それでも全く気にしてないとでも言いたげな、涼しい瞳であたしを見ていた。
彼が動く。
刃が恐ろしく光るナイフをベッド脇のテーブルに手放したかと思うと
勢いよく腕を捕まれて、あたしはその場に押し倒された。