誘拐少年―Little Summer―

お互いの唇が離れた一瞬の隙に、相手めがけて思いっきり叫んだら

彼は動きを止めて、近い距離であたしを見つめた。

あがっていた呼吸をどうにか落ち着かせて、鋭い視線から目を逸らす。

首を少し左に傾けた瞬間に見えた、刃渡り15センチのナイフ。


「…っ、やだ……」


無意識に哀願していた。


「……殺さないで…………」


馬鹿だと思う。

かっこいい男に声をかけられたからって舞い上がっていたあたしは相当な馬鹿だ。

腕を捕まれて、“今、時間ある?付き合ってほしいんだ”なんて力強い手のひらに翻弄されて

ラブホテルに連れ込まれて、襲われかけるまで気づかなかったなんて、笑い話にもならない。

今朝、お母さんに注意されたばっかりだったのに。


『友菜。最近、女子高生がホテルに連れ込まれて、襲われて、そのまま殺されたっていう事件が多いらしいから。

だから、気をつけなさいよ。いつ何が起こるかわかんないんだから』

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