誘拐少年―Little Summer―
いつもはうるさくて、邪険にしていたお母さんの存在だったけど
死を覚悟した瞬間、こんなに会いたくなるのはどうしてだろう。
言われたことにいちいち反抗して、親孝行の“お”の字もできなかったことを今さら後悔する。
泣いたってもう遅い。
そんなことわかってるのに、視界はさらに歪んでいく。
溢れ出した涙が頬を伝って、シーツに染みを作った。
雫の跡は次第に増えていく。
さっきまでとは別の意味で鼓動が速くなっていくのがわかった。
逃げたい。でも、逃げられない。
真上には誘拐犯がいて、手首は力強い腕で押さえ付けられている。
何より、目の前にあるナイフが、どこにも逃げ道がないという現実をあたしに突き付けていた。
泣いたところで、彼は誘拐犯なんだから、あたしを解放するわけがない。
むしろ泣いてる隙に写真を撮られたり、最後までやられて…泣き寝入りするしかなくなる可能性もある。
…いや、もしかしたら
今、この瞬間に
殺されるかもしれない。