ツインの絆
あの時はただ一人になりたかっただけだ。
家にいても家族が居るから一人にはなれない。
それならば現場に出て、多くの職人が苦手としている高所の仕事をすれば、
女房役の山根こそ近くに居るが、醜聞だけを残して死んだ妻の事を忘れられたからだ。
口には出さなかったが、一瞬孝太はその頃の事を思い出した。
しかし聞きたい話はそれではない。
「今真理子は、絶対に産む、と言っているが、俺は認めるわけにはいかない。
まあ、その事はまだ時間があるから,ゆっくりと真理子を説得するつもりだが…
どう考えても孝輔の様子がおかしい。気は付いていたが、
あいつの事はお前の方が理解出来るだろうと思っていた。
あの顔色の悪さは普通ではないな。
さっきバイオリンを弾いている時も時々辛そうな顔をしていたぞ。
お前の行動を見れば余計に分る。正直なところ俺は真理子より孝輔が心配だ。
昔からあいつは、お前が俺と笑いながら話していると,羨ましそうな顔をして見ている時があった。
しかし,俺がさり気なく呼ぶと、千草を意識しているのかスッと隠れてしまった。
時々そんな事があったが… まあ、あいつは千草がうまく育てるだろうと思っていた。
俺の育った環境はクラシックなど縁がなかったからなあ。
しかし、時には和也にしてやったように肩車… そう言えば、お前、俺が肩車をしてやるぞ、と言うといつも逃げてしまったが、何故だ。」
父は孝輔の事を案じていたはずだったが,突然思い出したように大輔に尋ねた。
肩車…
「だって、俺は和ちゃんとは違うから三年生になっていれば恥ずかしいよ。
嬉しかったけど、人の目が気になる年頃だったから。
いつまでも背負われる事や肩車が好きなのは和ちゃんだけだよ。
和ちゃんは悟さんにも背負ってもらっていた。」
とにかく父に肩車されていた和也は、いくら小学校の高学年になっていようと絵になった。
小柄で可愛い顔をした和也ならばこそだ。
そう言いながら大輔は子供の頃を振り返っている。