ツインの絆
由樹が出て行くと、広志はただ手持ち無沙汰な様子で立っている孝輔に声を掛けた。
「自信が無いけど… 手伝わせてください。」
孝輔の顔色はどう見ても良いとは言えないが、こうしてここに来るという事は気持ちだけは前向きだ、と思いながら広志は孝輔に声を掛けた。
事務所は、階段の近くと広志の税理士事務所がある西側とに出入り口があり、階段側から入ればすぐに水周りが出来ている。
その近くには職人達が集まるスペース。
その奥に事務所らしくスティール製の机が5個、コンピューターやコピー機などと共に並んでいる。
が、職人にとってはそんなものは興味が無い。
一応、総務部長と名乗っている広志、かしらの孝太、山根、それにあきら… と決めているが、実際に使うのは広志だけだ。
その奥に、それこそ現場で、不要品と言われた家具で整えたような応接間が出来ている。
それまでは孫受け、もしくはひ孫受けのような仕事がほとんどだった野崎組。
仕事の話を聞けば、こちらから急いで出向いていた。
しかしここ十年ほど、直接、依頼主や請け負った会社の社長や幹部が来るようになり、
慌てて形を整えたのだった。
「新しい人ですね。」
とりあえず広志の机らしきところの近くに座りながら、孝輔は今出て行った由樹の事を口にした。
「由樹のこと… そうだよ。今年入った。
ちょっと足に支障があるから、本来なら野崎はとび見習いしか取らないのだけど、
大樹と由樹は小学校三年の夏,家族でドライブ中に事故に遭い、両親は即死、
由樹は足を負傷して… それからは施設で育った。
勿論、見れば分るけど、大樹は健康。
由樹は動くには支障は無いが、あの通り少し足を引きずっているからか、体も細い。
だから学校ではよくからかわれたり、いじめられたりしたらしい。
だけど在学中は大樹が庇って二人で助け合って生きて来た。」
広志の話を聞いていて、孝輔は、自分と大輔のようだ、と思っていた。