ツインの絆
「そして卒業に際して、大樹は野崎の見習いになることが決まり、
由樹も希望していたが、生憎とび職にはとても無理。
それで一応は西尾にある中華料理店の下働きとして決っていた。
だけど、どうしても大樹と別れたくない由樹は、
大樹がここに来た日に姿をくらまし… こっそりとここの屋上に隠れていた。
もちろん施設の人も大樹と一緒に必死になって探した。
まだ三月半ばで夜になると冷えも厳しかったが… 次の夜、
見つけた時由樹は屋上で膝を抱えて震えていた。
大樹は見つかってほっとしたものの、どうしようもないのだから、自分が一人前になるまでは我慢しろ、と泣きながら何度も諭していたよ。
だけど由樹は… 一人になるのなら死ぬ、と言って本当に、
考える間もなくあの屋上から飛び降りた。
屋上で長い事隠れている間、一人でずっと考えていたのだと思う。」
「えっ、本当に。」
昨夜、自分も大輔の前で死にたい、と口走っていた。
その時の由樹の気持が手に取るように分る孝輔だ。
彼は、たった二人だけの肉親が離れ離れになるのが心細く恐怖だったのだ。
由樹にとって兄の存在が全てだったのだ。
自分も何かがあれば無意識に大輔を呼んでしまう。
的確に応えてくれるのは双子の兄、大輔だ。
そして孝輔は、屋上から飛び降りた由樹がこうして野崎組にいることが不思議な気がしている。
いくら三階建てと言っても地面はコンクリートだ。
飛び降りたら大怪我ぐらいするだろう。
そう思いながら孝輔は広志の顔を見ている。
「ちょうどその時に、11時を過ぎていたのに、偶然にもかしらと山根のおじさんと
あきら兄ちゃんが業者の付き合いから戻って来たところだった。
あきら兄ちゃんが機敏に動いて、落ちて来た由樹を、かしらと一緒になって受け止めた。
まあ、あきら兄ちゃんやかしら、おじさんだったから出来た事だけど…
だから今の由樹がある。」
広志は、わかったかい、と言う様な顔をして孝輔を見た。