ツインの絆

それにしても… 岡崎で生まれ育ったと言うのに、
家からそんなに離れていないと言うのに、
孝輔にとってはどの道も初めてのような気がする。


そうか、ほとんど母の決めた通学道路しか歩かなかったからだ。


途中で迎えに来る車を見落とさないように、同じ道ばかり歩いていた。


遊びに行く事も無かった。


孝輔は改めて自分のこれまでの人生を振り返り、切ないような気持ちに襲われている。







孝輔が県立岡崎西部高校と書かれた校門で立ち止まっていると、広志が背中を押した。


そして、威勢の良い運動クラブの掛け声が聞こえてくる体育館へ差し掛かると、
品の良い年配の男性が、嬉しそうな顔をして近付いて来た。


多分学校でも上の方の人だろう、と孝輔は考えていたが… 



「館山君、珍しいですね。家も職場も近いと言っていたのに、
卒業以来ではないですか。」


「はい、ご無沙汰いたしております。校長先生。」


広志も如才なく返事をしている。



「元気そうでなによりです。どうです。職員室でお茶でも… 」



えっ、校長先生が広志さんにこんなに丁寧な物腰で話しかけ、
職員室でお茶でも、と誘った。


広志さんは卒業して5年になると言うのに、まだ先生たちの自慢の卒業生なのだ。


孝輔は館山広志と言う人物に、大袈裟なようだが尊敬の念を抱いた。



「ありがとうございます。
今日はちょっと、剣道部の練習を見学させてもらおうと思って来たものですから。」


「あれ、君は野崎君… 今日の稽古はお休みですか。」



校長は広志の隣に立っている孝輔を、大輔と間違えている。


剣道部の野崎大輔が校名を高めてくれそうだ、という報告は受けている校長、
何度か大輔を見ていたことだろう。

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