ツインの絆
「真理子は今日もいないようだな。もうぼちぼち言ってやらねば。いつまでもあんな調子では、後になって泣くようになる。」
孝太が風呂上りのビールを飲みながら家族の顔を見、一人、姿の見えない娘の事を口にした。
「そうですねえ… すみません、千草があんな事を… 」
真理子の話になるとすぐ春子が、二年経った今でも千草のしでかした事を口にして涙を落とす。
そうなると何となく孝太は話を変えてしまうのだ。
「孝輔、痛みが続くようならしばらく学校を休め。無理に行かなくても良いだろう。和也のように楽しんで休む事も必要だぞ。テストがあるのか。」
「無いよ。分った、そうする。腕が痛いからバイオリンは弾けないし… 」
孝太はすぐにその場にいない長男・和也を思い出す。
孝輔と大輔は小学校へ入って以来、余程高熱が出れば別だが、ほとんど学校を休んだ事がなかった。
そこへ行くと和也は登校する事が嫌いで、家は追い出されるから出るのだが、すぐUターンして戻って来ては、隣にある道子おばの家に入り込んでいた。
本来、道子の家は名古屋だが、兄が東京と言う事から今はほとんどを東京で暮らしている。
そして、和也を可愛がっていた道子は、野崎の家の隣に敷地続きに建てている、ほとんど住んでいない家の鍵の隠し場所を、幼い子供の和也に教えていたのだ。