ツインの絆
高杉と言うのは道子の高校時代の同級生。
愛知県警察本部のトップ・2だったが、八年前に退職して以来、岡崎に戻り悠々自適の暮らしをしつつ,警察署近くの道場で後輩たちの剣道指南役をしている。
ちなみにあきらの父水島健一郎は会計士、道子とは小学校、中学、高校と同じだった。
道子や高杉と比べれば不釣合いなほどおとなしい性格だが、年と供に不思議な絆が芽生えているようだ。
三人とも73歳だがそれぞれにかくしゃくとしている。
高杉は子供に恵まれなかったから妻の縁者から養子を取り、その息子も今は警視庁の警察官として働いている。
しかし、20年前に道子の縁で孝太に会って以来、当時20代後半だった孝太を気に入り、今では毎年のように春の祭り、夏の花火大会には水島共々、親戚のような顔をして出入りしている。
48歳になっている野崎孝太を、野崎組のかしらとして頑張っている孝太を、どこか息子のように感じているのが高杉だ。
「まだ先だよ。これから地区予選… 父さんたちには俺が決勝戦に出場出来たら来て欲しい。」
大輔も孝輔も父のことは中学生になった頃から、父さん、と呼んでいるが、20歳になる和也がまだ、父ちゃん、と呼んでいるからか,孝太は自分の事を、父ちゃん、と言っている。
不思議なのはその事を誰もおかしいとは思っていないことだ。
和也は今アメリカの大学院生だ。
20歳なのに、と思うだろうが… 悟に導かれるように岡崎で一番レベルの高い高校へ、悟と同じ一番の成績で入り、一度も通学せずにアメリカの高校生になった。
向こうの飛び級制度を利用して、日本とアメリカを行ったり来たりしながら大学も卒業、今は大学院生として気ままな様子で暮らしている。
道子の計らいで、初めからこの家の名義は孝太ではなく和也と言うことになっている。
本人は東京に住む実業家の大伯父、道子の兄哲也の跡を継ぐつもりか、ビジネスや法律の勉強をしている。
そんな和也が今でも父親を、父ちゃん、と呼んでいる。