ツインの絆
事務所の上に寝泊りしている野崎組の職人見習い達は中卒だが、しっかりと地に足をつけて歩んでいる。
同級生だった宮田義男は職人の息子で、兄の武夫と一緒に父親と同じとびを目指している。
鳶は鳶でも野崎のとびは一味違うと、この前話した時、目を輝かせて誇らしげに言い、現場の様子も話していた。
彼は勉強が好きだと言って、今年から夜間高校へも通い始めた。
自分の目標に向かって進んでいるのだ。
そんな事をとりとめも無く考えていると、孝輔は切ないような気持になり、心のやりきれなさに涙が浮かんで来た。
今こうして考えれば… 母に導かれてピアノ、バイオリンと習ってきたが、果たして自分が選んだ道と言えるだろうか。
自信を失い、責任を他人のせいにしようとしている自分に気づき、孝輔は慌てて立ち上がり服を着替えた。
こんな所にいつまでもぐずぐずしているから、マイナス思考の考えばかりが浮かんで来る。
散歩でもして来よう。
孝輔は少しの間、てぐすねをひいて待っていた祖母たちの相手をしてから家を出た。
別に当ては無かったが… 東岡崎の駅には行かずにそのまま戸崎の方へと歩いている。
平日のこんな時間に、一人でこんな所を歩くのは初めてだ。
十年ほど前から警察署の近くに、大きなショッピングセンターが出来ているから来た事はあるが… 家が康生町、岡崎市の中心、昔ほどには栄えていないが、別にここまで来なくても何でも揃う。
そう言えば、母はここに入っているデパートで買い物をするのが好きだった。
いきなりそんな事が頭に浮かび… 孝輔は慌ててその思いを打ち消した。