ツインの絆
母の千草は、仕事に情熱を持ち、家族を愛し、妻を大切にしていた野崎孝太と言う男がありながら、年下の音楽講師と浮気して事故死した。
それは新聞にはただの事故死として処理されたが、週刊誌の類には… 人の口に蓋は出来ず、しばらくは家族全員が興味の目で見られ、悲しく悔しい思いをして来た。
祖母が母の遺骨に向かって泣いて怒っていた。
それまでの暮らしを考えれば、こんな大きな家に暮らせ、生活費も十分過ぎるほど貰っていたのにまだ不満を口にして、挙句の果てに皆に恥をかかせて死んだ馬鹿な娘だ、と言っていた。
その嘆き悲しみを目の当たりにして自分は何も言えなかった。
母の死を知らされて以来、大きな声で泣く事さえ父への、野崎の人達への裏切りのように思われた。
確かに母があんな男と浮気だなんて信じたくなかった。
少なくとも、母は家族を愛し、家族のために生きていると思っていた。
特に真理子と自分のことは喜んでいたはずだった。
浮気だなんて… そんな事は今でも信じたくないが… 実際には母が、あいつとラブホテルから出て来るところも何度か見られていた。
今までは自分の新しい生活に必死で、二年前に死んだ母のことも最近は思い出さなくなっていたと言うのに… こうして自分に自信が無くなり、おまけに腕が使えないと言うことで、学校を休んでしまうと、頭の隅に押し込んでいたものが顔を出して来る。
やはりバイオリンは母に繋がっているのか。
「野崎、野崎じゃあないか。今頃こんな所でどうした。」
声をかけて来たのは中学時代の同級生・早川実だった。
早川は、予定が無いのなら久しぶりに話をしようと言って、孝輔をショッピングセンターと警察署の中間辺りにある、間口の狭いラーメン屋に誘った。