ツインの絆

「この時間帯はいつもこんな感じだ。それでも夕方になると忙しくなる。警察への出前が多いのだよ。あの警察署の裏手に剣道の道場があるだろ。そうだ、この間【あっちの野崎】を見たぜ。剣道強いなあ。現役の警察官を相手にやっていた。同級だけど一度も同じクラスにならなかったから話したことも無かったが… 何と言ってもお前と同じ顔だから嫌でも分るさ。」



そう言いながら早川はカウンターの中に入りラーメン作りを始めている。


早川は孝輔と双子の大輔の事を、中学時代から【あっちの野崎】と呼んでいた。



「店を手伝っているのか。」


「ああ、西高へ入学した途端にお袋が倒れ… 姉貴がいるけど就職二年目で結婚してすぐ妊娠したから、そうなれば俺が手伝うより他は無いだろ。ここを借りてラーメン屋を始めたところだったからお袋も無理をしたのだと思う。まあ、あの時は俺も奈落の底に落とされたような気持だったが… だけど今は、あのまま高校生を続けても、何も将来の目標があったわけではないし、良かったと思っている。やせ我慢じゃあないぞ。今は親父と頑張って、その内には自分たちの店を持つのが夢だ。だからスープ作りも覚え始めた。もっとも俺の方が若いから出前の時は俺。」



そう話す早川の顔も、とび職見習いの宮田義男のように輝いている。


一瞬そう思った孝輔は、驚きの混じった心を隠して早川の顔を見つめている。


孝輔より背が低く、口元だけが大きく見える早川実、筆で描いたような細くて小さな目が優しい。
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