ツインの絆

「すみません。それでは康生までお願いします。あ、僕は野崎孝輔高二です。」



車に乗ると,孝輔は急いで自己紹介をした。



「知っているわよ。双子でしょ。あんたはバイオリンの方、同じ双子でも好みは違うのね。」




自分の事を知っていると言われ,孝輔は何となく嫌な気がして来た。


知らない人から双子だと言われる事も好きではない。


自分は野崎孝輔、外形だけでは無く独立した人格を持つ一人の男だ。


女の言葉に孝輔の心は反発を覚えたが… 言葉には出来ない。




「私は河村アキ、あんたは知らないようだけどこれでも先輩よ。」



「すみません。」




居心地の悪いまま、性格のおとなしい孝輔は素直に相手が知っていて自分が知らないことに対して謝った。


先輩… 先輩と言っても… 確か道子おばさんや水島さんも昔の先輩だと言っていた。


と、不思議なことに孝輔の脳裏には、自分たちが通っていた竜城中の先輩と言う言葉から、今年73歳になる道子おばの顔が浮かんで来た。


父は安城で育ったと言っていたが、父の母やその姉弟はその中学に通っていたと聞いている。彼らも確かに先輩だ。



そしてすぐに車は康生通りに入ったが… 車は止まる気配無くそのまま北へと走っている。



「河村さん、すみません、ここで結構です.」




孝輔は慌ててアキに声を掛けた。



「分っているわよ。もう少しこのままドライブしましょうよ。私、今、暇なの。」



「でも僕は家に… 」



もうすぐ父や大輔が戻って来る。

学校を休んだ自分が家にいないのでは話にならない、と孝輔は焦りを覚え、車に乗った事を後悔している。
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