ツインの絆
さっき大輔は,その内に姉の所へ父さんが行く、とか言っていた。
男と暮らしているとも言っていた。
どうしてそんな事を大輔が知っているのだ。
父さんが話したのか。
いや、男のことは… 多分友達からの情報だろう。
自分のことしか考えていなかった僕だけが、何も知らなかったのだ。
大輔はひょうきんな態度をとりながら、姉の事も気にしていたのだ。
家族だから当たり前なのに自分は…
一人になっていろいろな事を考え始めると、いかに自分だけが情け無い存在か、と思い知らされ、ますます人生が空なものに思われて来た孝輔だった。
「琢磨、昨日一緒にいた彼女、誰よ。」
「うるさいなあ。俺が誰といようが俺の勝手だ。文句があるなら出て行け。」
その頃、岡崎にいるはずの真理子は、豊田のはずれに出来たモダンなアパートにいた。
部屋の住人は保田琢磨、名古屋にある私立大学の三年生だが年齢は23歳、二年留年している。
何故かと言えば、軽い気持で始めたホストの仕事にのめりこみ、学業より仕事優先の生活で来てしまったからだ。
真理子は三ヶ月前、初めて名古屋にあるホストクラブに入った。
もちろん興味本位だ。
いくら小遣いは祖母たちからせしめると言っても、せいぜい岡崎周辺でだらだらと過ごすぐらいのものだ。
その時,高校時代女王様のように振舞っていた先輩に出会い、彼女の誘いもあり連れて行ってもらったのだ。
そこでこの琢磨が席に着き… その洗練された物腰にすっかりのぼせてしまった。
しかし、ホストクラブの客になるほど金は無く、それからの真理子はストーカーのように琢磨の後を付回した。
それに閉口した琢磨が部屋に入る事を許し、二ヶ月ほど前からは、ほとんどここで同棲のような暮らしをするようになった。