ツインの絆
「はい。広志さん、お願いします。」
大輔は社会人一年生の広志がとても大人に見え、力強い気持で応じられた。
大輔は今まで懇意に話をすることは無かったが、高校の先輩でもあり、兄の和也より実の兄のように信頼感のある広志だ。
そして広志は、昔のままに和也のことは和ちゃん、悟のことは悟兄ちゃん、あきらの事はあきら兄ちゃんと、他の事にはとてもクールなのに、それだけはいつまでたっても子供の時のままで来ている。
その夜、大輔が病院にいる間孝輔の姿は無かった。
広志に送られ家に戻った大輔は、気にしながら孝輔の携帯に再度連絡を入れたが電源が切られていた。
そして、孝輔に対する怒りと不安が膨れ上がった時、やっと孝輔が戻って来た。
「孝輔。」
大輔は孝輔の行動に怒りをぶつけようとして顔を睨み… その孝輔の顔色の悪さに驚いた。
孝輔は、手にしていた鞄とバイオリンケースを、靴と一緒に玄関に置いたままだ。
「孝輔… 何かあったのか。今までどこにいたのだ。気分が悪いのか。」
大輔はその瞬間、真理子のことなど頭が幕で覆われたように忘れ、孝輔の様子に胸が潰れる想いだった。
顔色が悪いだけではなく目つきも虚ろ… こんな孝輔は初めてだ。
「何でもないよ。ちょっと気分が悪いから眠っても良いかなあ。」
孝輔は階段の手すりにもたれかかるような格好をして、言葉を出すのも辛そうにやっとそれだけ言い、自分の部屋へと向かっている。
しかしその間、一度も大輔の顔を見ることは無かった。
ただ必死で自分の部屋に入ろうとしていた。
「孝輔、水を飲むか。」
大輔は慌てて鞄とケースを手にして孝輔の後に続いた。
孝輔… どうしたのだ。
次第に孝輔を気遣う気持が膨らんでいる。