ツインの絆

「死にたいなんて言うなよ。さっきのバイオリン、カッコ良かった。
やっぱり孝輔はバイオリンがうまい。このところ全く弾いていなかったのに即興でやってしまうとは… 皆嬉しそうだった。
俺、感心しっぱなしだった。」




大輔は何を言っても今の孝輔の中には入って行かないだろう、と思いながらも、気持が軽くなるような会話を探している。



「あんなもの… 」


「そんな言い方をするなよ。俺は音楽の事はよく分らないけど… 音楽と言うのは人を幸せにする事が大事ではないのか。
コンクールに出て優勝する事も大切かも知れないけど、
俺の中の音楽は、わかり易く、聞いていて幸せに感じられるもの。
だから今日の孝輔のバイオリンは最高だった。」




それは大輔の本心でもあった。


上手いかどうかは専門家が決めるかも知れない。


音楽と言うものは、聞いた人がいい気持ちになり、楽しめる事のほうが大切のように思っている大輔だ。


そして孝輔のバイオリンは、少なくとも大輔にとっては最高の音楽だった。




「大輔は剣道に打ち込み、実力が伴っているから分らないのだよ。
僕だってどれだけバイオリンを頑張って来たか… 
でも、もうそれもおしまいだ。自業自得だから仕方がないけど、目の前が真っ黒だよ。
こんな気持は大輔には分らないし,地区大会に向けて頑張っている大輔にわかって欲しくもないよ。」




そう言いながら孝輔は手元においてあったタオルで顔を覆った。


その様子からは完全に諦めている心が出ている.


今は何を言ってもうまくは伝わらないだろうと思った。


大輔はうまい慰め言葉が浮かばず、しばらく孝輔を見ていた。



しかし、いつまでもここに居れば、和也の部屋で眠る父が不審に思うかもしれない。


何しろ和也の部屋は大輔の隣だ。


二人で姉の事を心配していたと言えば話は通るが…
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