ツインの絆
「孝輔、今晩はゆっくり寝ろよ。明日は父さんたちが仕事に出かけた頃を見計らって、広志さんの所へ行ってくれ。
家にずっと居ては誰かが気にするかも知れないから事務所の方がいい。」
大輔は大切な事を思い出して孝輔に伝えた。
「事務所… 僕、まともに行ったことが無い。
階段の下で宮田義夫君と話をした事はあるけど… 」
宮田義夫はとび職人の息子で、孝輔とは中学の同級生だった.
一・二度顔を合わせた時に数分話をした事はある。
しかし思い出すのはそれしかなかった。
孝輔は事務所と聞いただけで戸惑っている。
真理子と孝輔は母が嫌がったからなのか、同じ敷地にあると言うのに、事務所へ足を踏み入れる事もしなかったのだ。
和也と悟、広志の三人は自分の部屋より居心地が良かったらしく,事務所に入り浸っていた。
そして悟や広志は高校生になると一人前のような顔をして、事務一般までも手がけていた。
電話番などは中学生からしていた。
まあ和也だけは少し違っていたが…
大輔も高校生になって部活が忙しいが、時間があれば顔を出し、広志や今年事務一般として入った中卒の小坂由樹と話している。
何故ならば、ピアノを止めてからの大輔は、顔には出さなかったが母の自分に対する態度が悲しかった。
祖母たちがいたから淋しいと言えば… 複雑だった。
そんな時、やはり母が苦手としていた和也が、和也は千草の前でも、僕の本当の母ちゃんは、と平気で祖母に尋ねるぐらいで、上品好みの千草を嫌っていた。
その分、父ちゃんが大好き、と誰にでも公言する、子供らしい正直な心を出していた。
しかし、和也は大輔たちをも認めていないところがあり、大輔も和也を兄として気さくに話す事は出来なかった。
昨年の3月は… 特別だった。
あれは… 多分、父を励ますためのものだったのだろう。