ツインの絆
確かに、4歳年上の和也が、本当はとても賢いのだが、大輔の目から見ても子供っぽい。


あの童顔でつぶらな瞳を見ると… 近寄りがたい。


そして、下手に和也の前で父に擦り寄るものなら、怒って攻撃されそうだ。


しかし、大輔も中学生になる頃から、仕事が出来ると噂され、男っぷりの良い父がますます好きになっていた。


母の手前、その心を口にすることは無かったが… 



思い起こせば、大輔が幼稚園児となってすぐの事だった。


春の祭りの後、リビングに集った人達を前にして道子が、孝太は源次郎の生まれ変わりだ、と言えば和也が、僕の父ちゃんは最高の鳶だ、と言い、

壁にかかっている外国へ行った時の仕事写真を、小学低学年の和也が、
まるで見ていたように、複雑な外国地名もすらすらと、上手に皆に説明していた。

瞬く間にその場は活気ある鳶の世界に急変し、盛り上がった。


そんな光景を、まだ幼稚園へ行き始めたころの大輔と孝輔は、離れたダイニングから目にしていた。


そしてその光景を見て、大輔も野崎の子供として内心では誇らしかった。


そう、その頃から野崎孝太の次男として生まれた自分が嬉しかった。


だから、大輔はまだ誰にも言っていないが、大学へは行き、卒業後は何らかの形でこの野崎で働きたいと思っている。


それからでは普通の職人にはなれない。


しかし、長男の和也が何と言うか。


道子がここを建てた時、家の名義は父ではなく、赤ん坊だった和也にした。


勿論孝太は少しでも… と毎月ローンのように道子の口座に振り込んでいるが、
何しろ土地の広さや家の大きさ、場所などを考えれば
このまま一生払い続けても思ったような額にはならない。


そんな事は誰も気にしていないのだが… とにかく名義は和也になっている。


株式会社野崎組は役員として道子、娘の亜矢可、道子の兄・哲也、それに孝太の名前が入っているが、資本金など無い孝太はただ名前だけの存在だ。


そしてとび職野崎組は、今のかしらは孝太、次期はあきらだ。



株式会社の方は道子の代わりに広志が、亜矢可の代わりに悟が、哲也の代わりに和也が役員になるらしい。

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