君に幸せの唄を奏でよう。
最近、幼い頃の夢をよく見る。いつもの様に、白い空間に栗色の綺麗な髪をしたお母さんと2人だけ。
「いい、唄希? 歌はね人の心を動かす幸せな魔法なのよ」
「幸せな魔法?」
幼い私を膝の上に乗せて、頭を優しく撫でてくれる大好きなお母さん。幸せな魔法という言葉が気になって聞き返す。
「そうよ。知らない誰かを幸せにできるの。歌で心が繋がるのよ」
ふわりと微笑みかけるお母さんを見てると、温かい気持ちになる。
「凄いね!あたしも歌って、誰かを幸せに出来るかな?」
お母さんの言葉を聞いて、あたしもそうしたいと願い、興奮しながらお母さんに聞く。
「出来るわ。唄希は、歌好き?」
「うん!大好き!だからあたしね、将来は歌手になりたいの!」
あたしは歌をうたうのが大好きだから、歌手になりたいと強く思うようになった。
「凄いわね、唄希。お母さん応援しちゃう!」
お母さんははしゃぎながら、あたしを優しくぎゅっと抱きしめてくれた。
その時、いい事を思いつき膝から降りる。そして、くるんとお母さんの方に振り向いて前に立つ。ただ、お母さんは不思議そうな表情であたしを見つめていた。
「じゃあ、お母さんも一緒に歌手になろうよ!」
さっきまで笑っていたお母さんは、あたしの言葉を聞いてえ?と驚いた表情をしていた。
「だって、お母さんは歌が上手だから歌手になれるよっ!」
あたしが歌うようになったのは、お母さんが歌を教えてくれたから。お母さんの歌は、とても綺麗な声で、あの微笑みのように優しくて温かい気持ちになる。
だからこそ、お母さんの歌声をたくさんの人に聴いてもらいたい。
「……お母さんは、歌手にならなくてもいいの」
さっきまで、笑顔だったお母さんは何処か寂しそうな表情をする。お母さんの様子が変わって、不安な気持ちになる。なんで、そんな表情をしたの分かなかったけど、幼いあたしでもお母さんが悲しんでいるのは感じた。
「お母さん悲しいの?」
心配になって声をかけると、あたしの頭をまた優しく撫でる。
「唄希や周りの人達が、お母さんの歌を聴いて幸せになってくれれば、それだけでいいの」
お母さんは笑顔で言ったけど、まだ少し悲しそうな表情をしていた。
「お母さんは、歌手にはなれないけど唄ならきっとなれるわ」
「本当?」
「そうよ。あなたの歌声を聴いていると、幸せな気分になれるの」
お母さんに褒められて、凄く嬉しかった。
「分かった!お母さんの分まで歌手になる!」
「フフ。将来が楽しみね。でも、歌手になれるのは周りの人が支えてくれるからなのよ」
お母さんの言葉を聞き、あたしは大きく頷く。
「歌手になって周りの人達の為に、そして自分自身の為に歌ってほしいの。約束できる?」
お母さんは、ふわっと優しく微笑んだ。
「うん。できるよ!」
「じゃあ、指切りげんまんしよっか」
お母さんは、あたしの前に小指を差し出す。あたしも小指を差し出し、お母さんの小指に絡める。
「「指切りげんまん~嘘ついたら針千本飲ーます。指切った~!」」
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