君に幸せの唄を奏でよう。
「俺のせいで遅くなったな。家まで送る」
「でも…」
「俺が送りたいから、送らせてくれないか?」
また、亮太が哀しそうな笑顔で聞いてくるから、あたしは何も言わず小さく頷いた。
気まずい雰囲気の中、あたし達は歩き始める。
夏の夜風が、あたし達の髪をなびかせる。
いつもは楽しく話をしながら帰ってるから、静かな夜は初めてだった。
隣に居るはずの亮太が、今日はあたしの前に居る。ただそれだけなのに、とても寂しく感じる。
そして、もう元の関係には戻れない…。
「送ってくれて、ありがとう」
家に着き、亮太にお礼を言った。
「おう……じゃあ、また来週な」
「……うん」
亮太の帰って行く背中は、とても寂しそうで見てるこっちも辛かった。
あの時、なんで橘 奏が出てきたの…?確かに、あたしの中で答えは決まってた。
だけど、それとはまた違う。
さっきから、心臓がドクン、ドクンと脈を打つ音が、段々大きくなってうるさい。
まるで、早く何かに“気付け”と言われているかの様に、あたしを急(せ)かし続ける--。