君に幸せの唄を奏でよう。
重い空気の中、音夜が口を開く。
「……好きな奴がいるのか?」
音夜は真剣な表情で、あたしに質問する。
「……分からない」
中途半端な答えだって、分かってる。だけど、今はそうとしか答えられない。
「……もしかして、亮太にも同じ事を聞かれてそう答えたのか?」
「…うん」
あたしが小さく頷くと、音夜は眉間にしわを寄せ考え込む。
音夜の行動を不思議に感じ、音夜を見つめる。
「……そう言えば、今日は母さんの誕生日だな」
音夜は何かを思いついた表情で、あたしに話す。
今日8月10日は、お母さんの誕生日。毎年、お母さんの大好きな花を買って、みんなでお祝いする。
「今年は、お前が買いに行け」
「うん。分かった…」
いつもは、3人で変わり交代で花を買う。今年は、音夜の順番なんだけど、なぜ音夜に変わってと言われたのが分からない。
「そのついでに、気分転換と気持ちの整理をしてこい」
「……うん」
音夜も分かってるんだと思う。あたしが亮太に中途半端な事をしたって。
そして、音夜なりにあたしを気遣ってくれてる。
亮太の為、音夜の為に、早く答えを見つけなくちゃ。
「じゃあ、街の花屋さんで買ってくる」
「ああ。頼んだ」
あたしは急いで部屋に戻り、おしゃれな服を選んで着替える。
テキパキと身支度を済ませ、お母さんの写真の前に立つ。
「お母さん、いってくるね。音夜、留守番よろしくね」
「分かった。いってらっしゃい」
「いってきます」
笑顔でお母さんと音夜に言い、家を出る。