君に幸せの唄を奏でよう。
【奏 said】
高橋と別れて、バスの中がやけに寂しく感じる。そのせいか、今まで気にならなかったバスの揺れが伝わってくる。
今思えば、こんなにも長く高橋と一緒に居たのは初めてだったな……。
そんな事を思いながら、バスの揺れに体を預けて窓の外を覗いた。
――今日は、俺が知らなかった高橋を知った。
人に甘える事が下手なこと。そのせいで、全部背負い込んで笑顔で誤魔化し続けたこと。
そして、強い自分であり続けたいと頑張って空回りをして友達も自分自身さえも傷つけたこと。
でも、高橋は逃げるのを止めた。友達を傷つけてしまった弱い自分と向き合う姿は、何処までも真っ直ぐだった。
高橋が前に進む姿を見て、俺も前に進みたくなった。
4年ぶりに音楽を聞いた時は、あの日を思い出して逃げたくなった。そうなると分かっていたのに、俺の中でやめる選択肢はなかった。
俺の傍に、高橋が居てくれた。だから、あの日を乗り越えようとする自分が頑張って聞くことが出来たんだ。
『音楽を聴いてくれて、ありがとう!』
高橋が嬉しそうに言った言葉は、もう一度、音楽と歌に向き合ってみようって心の底から思った。
もし許されるなら、高橋と同じ光の下で立ち続けたい。一緒に歌を歌ったり、思いっきりギターを弾いて演奏をしたい。
そして、かつての仲間たちともう一度バンドをしたい。