君に幸せの唄を奏でよう。
そして金曜日。浩ちゃんの家に集まって、みんなで文化祭に向けての曲の候補を出して決めるはずだった。だけど…………
唄希ちゃんと亮太くんは最初様子がいつもと違くて、空気がギクシャクしてた。だけど、話し合いが始まった途端、いつもの様に真剣な眼差しで話を進める。
いつもの2人のやりとりが無くて何処か寂しく感じた。
そして、私も表に感情を出さないようにしているけど、この前の事が頭から離れなくて、浩ちゃんと目が合うたびに目を逸らしてしまう。
すると突然、浩ちゃんが席を立ち上がる。私たちは、浩ちゃんの行動に驚いて、ただ眺めることしかできなかった。
「今日は、もうやめよう」
突然、浩ちゃんの言葉に私たちは大きく目を見開いた。
「浩平ッ……!」
亮太くんは、椅子から立ち上がって浩ちゃんに詰め寄るように声を掛けた。でもその表情は、何処か苦しそうだった。
きっと、亮太くんは気付いたんだ。なんで、浩ちゃんがこんな事を言い出したのかを。
「みんなの気持ちがバラバラのままじゃ、いい音楽なんか生まれない。それに、こんな中途半端のままで打ち合わせをして、演奏なんかしたくない」
冷静に話す浩ちゃんに、亮太くんは罰が悪い表情をする。唄希ちゃんも、気まずい表情を浮かべていた。もちろん、私にも悪いところがあるから思わず下に俯いた。
私達3人も、浩ちゃんと同じ事を思っていた。このままじゃ、ダメだって分かっていたのに、それを浩ちゃんに言わせてしまった。
「まだ日はある。その時に、詰め込めばなんとかなるから、しばらくの間休みにしよう」
浩ちゃんの言葉に、私も含めて誰も反発する人は居なかった。休みという言葉を聞いて、みんなでライブの準備が出来なくて凄く悲しい。
だけど、気持ちの整理がつかないまま演奏をしなくてもいいんだって、安心している私が居てとても悔しい。
私たちは、今日の集まりを解散した。先に、唄希ちゃん達が浩ちゃん家を出て行った。私も浩ちゃん家を出ようと、玄関のドアノブに手をかけた時。
「ねぇ、相原。どうして、僕を避けてるの?」
その言葉を聞いて、ドアノブを握る手が強くなった。私は、恐る恐る浩ちゃんの方に振り向くけど、目を合わせるのが怖くて下に俯く。
「僕、相原に何かした?」
「こ、浩ちゃんは、何もしてないよ」
首を横に振りながら、必死に答える事しか出来なかった。
「じゃあ、どうして僕の目を見ないの?」
そう言われた時、下に俯いている私の視界に、浩ちゃんの足が入る。きっと、このまま顔を上げれば、浩ちゃんは目の前にいる。
「相原…「ごめんなさいっ!」
どうしたらいいのか分らなくて、ただその場にいるのが怖くて逃げ出してしまった。