君に幸せの唄を奏でよう。
「相原!」
後ろから、浩ちゃんの声が聞こえる。だけど、後ろを振り向くのが怖くて全力で逃げるけどーー。
「待って、相原!」
あっという間に追いつかれてしまった。私の腕を掴む浩ちゃんの手には、力が籠もっていないのに、痛くて胸が苦しい。気がついた時にはーー。
「相原?」
泣いていた。溢れる涙が止まらない。涙でぐしゃぐしゃになった顔を、浩ちゃんに見せてしまった。
見せたくなかった。溢れ出した想いと涙を止めることは出来ない。
「何処か座れる所を探そっか」
泣き続けている私を、なだめるように声を掛けてくれた。私は、言葉が出てこなくて首を縦に振って、浩ちゃんの手に引かれてついて行くだけ。
少し離れた所にある、公園のベンチに座った。私は、浩ちゃんと少し距離を開けて座った。
「ねぇ、相原。相原が、今考えている事や思っている事を僕に教えて」
真っ直ぐな瞳が、私を見つめる。この瞳から逃げるのをやめて、浩ちゃんに全てを話した。
話している最中に、浩ちゃんは何か言いたげそうな表情をしたけど、最期まで話を聞き続けてくれた。
話そうと決めた時、ある覚悟をしていた。そして、全て話し終えたとき、ベンチから立ち上がって浩ちゃんの前に立つ。
「浩ちゃん、話を聞いてくれてありがとう。私、応援しているから」
「え?」
「浩ちゃんが唄希ちゃんと上手くいくのを」
浩ちゃんと話している時、やっぱり好きなんだなって思った。でもね、ここで私の気持ちを押しつけたら、きっと浩ちゃんは困ると思う。
浩ちゃんの困った顔なんて見たくない。そんな顔よりも、幸せな顔で笑う浩ちゃんの方がいい。
すぐには、浩ちゃんの事を諦められない。でも、浩ちゃんが唄希ちゃんと幸せになれるなら、この想いを伝えなくても、浩ちゃんの恋を応援したい。
「相原、ちょっと待って!」
突然、浩ちゃんが頭を抱えながら、焦った声を出す。
「いつ、僕が高橋の事を好きって言ったの?そんな事を言った覚えがないんだけど」
え?どういうこと?
私がそう思っていると、何故か浩ちゃんも私と同じような顔をする。浩ちゃんの反応を見て、私の言い方が悪かったんだと気付いてもう一度話す。
「た、確かに好きって聞いてないよ。でも、いつも浩ちゃんは唄希ちゃんの事を話す時は楽しそうだよ。それに、理科の実験の時に、唄希ちゃんの髪を綺麗だって愛おしそうに言ってた。
それに、花火の時も唄希ちゃんを呼び出して2人きりで良い雰囲気になってたんだよ」
さっき話した話を繰り返している内に、じわりと視界が滲む。
泣いちゃダメ、ここで泣いたら何もかもが台無しになる。
「もしかして、高橋に嫉妬してたの?」
「えっ?」
予想外の答えに、出かけていた涙が引っ込んだ。
嫉妬?私が、唄希ちゃんに抱いていた黒い感情は嫉妬だったの?
「確かに好きだけど、僕にとって高橋は大切な友達で仲間だよ」
にこっと微笑みながら話す浩ちゃんを見て安心する。
あれ?ちょっと待って。浩ちゃんは唄希ちゃんを恋愛感情で見ていない。じゃあ、私が勝手に勘違いをして、唄希ちゃんに嫉妬してただけ------!
つまり、遠回しに浩ちゃんが好きって告白したのと同じ---!
「あ、えっと、その」
どうしよ、どうしよ、恥ずかしくて顔が見えないよ。
そう思っていたら、ふわっと浩ちゃんに抱きしめられていた。