君に幸せの唄を奏でよう。
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俺は、バイトが終わり家に帰る途中だった。入学と同時に引っ越しをしてきたから、散策をしながら家に帰っていた。
そして、昨日は土手のコースから帰ることにした。そう。ここまでは良かった。
ふと、河原に視線を移すと人影が見えた。 俺は、思わず漕ぐのをやめて止まった。
何をするんだろうと気になっていたら、何かが聞こえてきた。
それは、大ッ嫌いな歌だった。
この場所には居たくなくて、歌を無視して帰ろうとしたが足が動かなかった。いや、動けなかった。
その声に捕らわれてしまった。
何か曲のようなものを歌っていたが、俺は【声】ばかりを聞いていた。声の高さから、女性と判断が出来た。
その声を聞いてると、すべてを呑みこまれそうな感覚に襲われ、ゾクっと鳥肌が立つ。
少し高い声を出せば、エレキと一緒に激しく波を打つように弾きたくなる。少し低い声を出せば、ギターと一緒に静かに弾きたくなる。
いや、むしろ楽器無しでも充分だろう。音に負けない【声】
そして、汚れを知らない【純粋な歌声】まるで、何かを願っているかのように歌い続ける。
ずっと、このまま歌を聴き続けたくなるぐらいに惹かれている自分が居た。
……って、なに考えてるんだ!しっかりしろよ、俺!
その歌を聴き続けていると、4年前に、封印したはずの【昔の俺】が疼き始めた。
体が勝手に声の持ち主へと、向かおうとする。
ヤバいッ!このままじゃ……!呑み込まれてしまう!
そう思ったが、もう手遅れだった。勝手に動いた俺の体は、土手を降りて声の持ち主の前に立っていた。