君に幸せの唄を奏でよう。
【奏 Side】
「はぁ……」
電話が終わった後、おもわず溜め息をついた。
俺は、今日の出来事を思い出した。
今日は、バイトも休みで本屋に行った帰りだった。
角を曲がろうとした時に男女が揉めていた。
………面倒事に首を突っ込みたくない。
俺はそう思い、違う道から帰ろうとしたが、“あいつ”がいた。 “あいつ”を見かけた途端、体が勝手に動いていた。
気がつけば、あいつらを助けていた。
まさか、この携帯の持ち主が“あいつ”だったとは……
俺は、携帯を見つめながら思った。
『いい名前ね』
“あいつ”にそう言われた時、ビックリした。
【今の俺】は、自分の名前が好きじゃない。
むしろ憎い----
あまり名前で呼ばれたくない。
特に“あいつ”には------
歌と音楽をやめて4年。最初は苦しかったが、もう慣れた。
これで、断ち切れると思った。
いや、思っていた---------
『あたしの名前は、高橋 唄希』
名前が“うたう”とは------
名前を聞いただけで、動揺した。
「なにかの嫌がらせか?」
俺はそうつぶやき、虚しくなり笑った。