BLOOD
「美緒姉を離せー!」

床に座り込んだまま、里緒が力一杯叫んだ。
そんな里緒を嘲笑うかのように、医師は美緒の首に手を回した。

「嫌ですよ。私の狙いはお嬢さんなのでね。」

「え…私?」

大きく開けた口を美緒の喉元に近付けながら、医師は続ける。

「あなたの血は全ての吸血鬼を狂わせてしまうほどに、甘い誘惑の匂いを放っているのです。世にも稀な黄金の血…それを私が全て飲み干せてしまうなど!」

美緒は頭がくらくらと痛んだ。
そして、口にするのが恐ろしいというように身体を震わせ、目に涙を溜めながら医師に問うた。

「私一人のために…お父さんとお母さんを殺したの?」

美緒の言葉に、医師は目を丸くした。
そして、喉を鳴らして笑った。

「お嬢さんは先程の私の言葉を聞いていなかったのですか?」

恐怖で真っ白になりかけている頭を、美緒は必死に巡らせて医師が言った言葉を思い出す。

『ここに呼び出すために』

医師は確かにハッキリとそう言っていたのを、美緒は思い出した。
そして、急激に怒りが込み上げてきた。

「…うもの。」

恐怖を忘れて美緒の口から言葉がこぼれ落ちた。

「卑怯者!」

美緒はそう怒鳴り、首元に当てられた医師の歯を睨みつけた。
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