BLOOD
「貴方には申し訳ないが、記憶を少し弄らせてもらいます。吸血鬼のことが表沙汰になると厄介なのです。」

美緒の額に前足を当てたまま、犬は悲しげに語る。
美緒は訳が分からず、目を丸くして犬を見つめている。

「わんちゃん、お名前は?」

ふにゃっと笑うと、美緒は犬に問うた。
今度は犬が目を丸くして、続いて困ったように器用に笑ってみせた。

「貴方に私の名を告げても、忘れてしまうでしょう。」

「わんちゃんのお名前!」

名前を教えない犬に、美緒は眉を吊り上げて怒る。
犬は降参だとばかりに、首を横に振ると美緒に名前を教えた。
名前を教えてもらった事に満足したのか、美緒は大人しくなった。

「さよなら、美緒。」

悲しげに犬が微笑んだ。

「バイバイ、わんちゃん。名前教えてくれてありがとう。忘れないよ。」

まるで、犬がなにをするか分かっているかのように、美緒は力強くそう言った。

「きっと貴方は忘れてしまう。」

美緒に聞こえないくらい小さな声で呟くと、犬は美緒の瞳を見つめた。

「でも出来ればどうか…覚えていて?僕はずっと美緒の味方だよ。」

親しげに美緒に告げると、犬は踵を返して美緒の前から姿を消した。
犬が姿を消した瞬間、美緒は血だらけの奈緒の上に倒れ込み、深い深い眠りについてしまった。
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