BLOOD
里緒が玄関から出てきて、立ち止まったままの美緒にぶつかるまで、美緒は蝙蝠と睨み合う形で立っていた。
ほんの数秒だったのだが、美緒にはとても長い間に思えた。

「神谷病院まで。」

タクシーを拾い、運転手にそう告げると、美緒は座席に背中を預けて溜め息を吐いた。
隣を見ると窓から流れる景色を、ぎゅっと唇を結んで見ている里緒が目に入った。

「(里緒…。)」

強がっていても、やはりまだ幼い弟。
もしも両親がいなくなったら、里緒は自分が守らなきゃと、美緒は拳を固く握り締めた。
美緒と里緒が思いに耽っている間にも、タクシーはどんどん進む。
幾つもの信号を渡り、他の車を抜き、やっと病院に辿り着いたときにはもう夜の九時をまわっていた。

「あの、水島 朔磨と八重の家族ですが…。」

受付で作業をしていた女性にそう尋ねると、女性は暗い顔をして俯き加減に言った。

「暫くお待ち下さい。医師を呼んで参りますので…。」

女性のこの態度に、美緒と里緒は不安に駆られた。
医師を呼びにいった女性の背中を見送り、美緒と里緒はロビーの椅子に腰かけた。
カチ、コチ…と鳴る時計の音がやけに耳につく。
美緒はじっと座っていられなくなり、立ち上がるとうろうろと歩き始めた。

「(お父さん、お母さん…。)」

ぎゅっと手を握り締め、美緒は祈った。
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