BLOOD
暫くして、医師を連れて女性が戻ってきた。
医師は美緒と里緒を見るなり、哀れんだ目つきになって女性に叫んだ。

「まだ二人とも子供じゃないか!」

「先生、しかし…。」

怒鳴り散らす医師に、女性は一生懸命説得を試みる。
しかし、医師は女性の話に耳を傾けず、頑なに怒鳴り続ける。

「美緒姉…。」

小さな手がするりと美緒の手にまわり、ぎゅっと握り締めた。
どこか遠くから医師と女性の会話を聞いているような感覚に囚われていた美緒は、ハッと我に返ると里緒の小さな手を握り返した。

「あの…。」

おずおずと医師と女性の会話に割って入ると、医師も女性も口論をやめ、まだ幼い美緒と里緒を見据えた。
医師はまだ納得いかないのか、美緒が口を開くのを待つ間、ずっとむっつりと唇を結んでいた。
そんな医師の顔をちらりと見たあと、美緒は口を開いた。

「父と母は、無事なんですか?」

ドクン、ドクン…心臓が波打つ音がやけに耳につく。
美緒は医師の返答をじっと待った。
里緒と繋いだ手が、じっとりと汗をかいてきた。
里緒を見ると、俯き加減で緊張している。

「…あなた方のご両親は…。」

長い長い時が過ぎたと思われたとき、医師が唐突に口を開いた。
そして、淡々と言いきった。

「交通事故により、今しがた死亡されました。」
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