BLOOD
しかし、これ以上大事な者を亡くしたくはない。
その思いが美緒を強くし、刃向かう勇気を与えた。

「弟を…里緒を離して。」

医師の冷たい視線に負けじと、美緒もじっと医師の瞳を見つめ返す。
そして、一歩一歩二人に近付いていく。

「美、緒…姉。」

苦しみに堪える里緒の声が、美緒の身体を動かす。
次の瞬間、美緒は反射的に医師に飛びついた。
がっしりと医師の身体にしがみつき、その手から里緒の頭を引き離しにかかる。

「フフッ…勇敢なお嬢さんだ。しかし、時にそれが命取りになるのだよ。」

ギリギリと締めつけられている里緒の頭は、中々医師の手の中から離れてくれない。

「な、何が言いたいの!?」

渾身の力を振り絞り、美緒は医師の手をこじ開ける。

「吸血鬼相手に無謀な戦いだと言ったのだよ。」

突然、医師が大きく口を開いた。
その中に整然と並ぶ一際長く尖った歯。
美緒は悲鳴を上げて、最後の力を振り絞り里緒を医師の手から引き離した。
手から解放された里緒は床に転がり、美緒たちから離れた。

「逃げて!」

まだ医師にしがみついたままの美緒は、里緒に向かって力一杯叫んだ。

「美緒姉!」

美緒を助けようと医師に突進するが、またも軽々とかわされてしまい、里緒はまた床に転んだ。
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