記憶

いきなりそんな事言われて
正直カチンときたけど…
黙ってるわけにはいかない。

「あの…っ」

「ん?なに」

「ありがとうございました」


…………多分1分くらい。
怖いくらいの沈黙。
もしかして行っちゃったのかな…


「こっち。どこ見てんだお前」

「えっ…あ、ごめんなさ…」

「…だからこっちだって」

「あー…すいません」


ペコペコする私を見て
小さく何か呟いてる。

俯いたままの私の頭に
ポンって手が置かれた。


「目が見えないからって下ばっか見てんなよ?」

顔上げて、前見て歩け。



名前も知らない私に優しくそう言ってくれた君の声に
自然と久しぶりに笑えたんだ。


「あ、えっと…また、ってどういう…」

しどろもどろな私の言葉に
君が笑って答えてくれた。


「あの歌、俺も好きなんだよな。
で、お前いつもいるし、
帰りに高確率でずっこけてるだろ」


路上の観衆仲間、らしい。
あの歌が好きな人、いたのか…
そして私そんなに転んでたのか…


「またな、ちゃんと前、みろよ」



名前も顔も知らない君の声に
私はきっと恋をした。

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