先生の秘密
「ウフフ、貴女達は昔からそう。お人よしで優しいのに、誰にも理解されないと心の悲鳴に気づかずに、暴れ回っていたのよね」
「シスター!」
楓さんが慌ててシスターの口を封じにかかる。
そんなに知られたくない内容なのだろうか。
「もう!ふーちゃんもいるのに!」
椿さんは、ぷくりと頬を膨らませて、顔を赤く染めている。
「でも、シスターに会いたかったっていうのは、本当だよ?」
「嬉しいことを言ってくれるわねぇ。ありがとう」
シスターは柔らかい笑顔を浮かべて、双子に歩み寄る。
「それは、私達が言いたかったの。ありがとうって」
「そう…」
一瞬、寂しそうな表情に気づいたのは、子供達だけのようだった。
シスターは、全国津々浦々、困った人がいればすぐに向かう人だ。
そんな人だから、一期一会なんて当たり前なのだろう。
実際に感謝されたのなんて、何度あるんだろう。
私も、聖やはつかも、シスターがどこで何をしているのか分からない。
霞さんすら、知らないのだ。
感謝されることもあれば、後悔することも、憎まれることもあるのだろう。
シスターだって人間だ。
ちらりと、先生を盗み見る。
正直ずっと、迷っていた。
本当は、言わなくても先生は何も聞かないのだと思う。
どうして、この教会にいたのか。
どうして、孤児院にいるのか。
聞きたくても、聞かない。
私が話すまで、きっと待っていてくれる。
いや、言わなくても、先生は怒らない。
ずっと秘密にしておくことだってできる。
先生は、そんな人だ。
でも、言わなくちゃいけない。
何となく、先生には言っておいた方がいいと思った。