先生の秘密
私には、夢中になれる物も、将来の夢さえも持っていない。
簡単に掴んだ二人が羨ましい。
はぁ、とため息を吐く。
ブーン、と機械的な音を響かせる自動販売機に小銭を入れて、よく確認もせずに適当にボタンを押す。
「………」
出てきたのは、おしるこだった。
この季節にホットなんか置くなよ!
「おしるこ、好きなの?」
背後から話し掛けられて、思わずビクリと肩を震わせる。
ゆっくりと振り向くと、暗い廊下に自動販売機の光がぼんやりと照らし出した。
風呂上がりなのか、しっとりと湿った艶やかな髪からホクホクと湯気が立ち上っていて、いつもより頬がほんのりピンクがかっている。
うっすらと見せる笑顔が眩しい、生徒会長の内海先輩だ。
「あ、いえ。間違っちゃって」
「間違っちゃうの?」
先輩は目をまんまるに見開くと、クスクスと笑う。
何だか、恥ずかしい。
先輩は、ジャージのポケットから小銭を取り出すと、自動販売機に入れて、イチゴ牛乳を二本取り出した。
「はい」
そう言って、二本あるイチゴ牛乳の内、一本を差し出してきた。
「え、」
「あげる」
反射的に出した掌の上に、ポンと置かれた。
あ、どうも、と微妙な言葉を発して顔を上げると、先輩はにこりと微笑んだ。