先生の秘密


「いい人ぶってるっていうか、完璧な自分を演じてるっていうか。まぁ、もちろんキャラを作っていない人間なんかいるわけないんだから、今の私も、素という自分を演じてるって言い換えられるんだけれど」


それは、分からないこともない。


皆、キャラを作ってるって言うと誤解を受けかねないけど、やっぱり誰しも人の目を気にして生きてるわけだから、完全なるナチュラルな自分をさらけ出す、なんてことはできっこない。


自分は本当にいい人間だ、と思っている人は、多分いないと思う。


それは、何よりも自分のことを理解しているからで、それでいて分からないからだ。


小さい頃、家族や好きな子と仲良くしている人に対する嫉妬心や憎悪に、自分にもこんな汚い感情があったのか、もしかしたら私だけじゃないのかと自己嫌悪に陥る経験をしたことのある人間は少なくはないだろう。


結局は、そういうことだ。


他人の考えていることなんか分からないのに、自分が他人と違うかもしれないと思い込むと不安になる。


他人もそうだと聞いていても、やはり安心することなんてない。


それが、積もりに積もって、自分の悪い部分に繋がる。


いい部分を覆い隠してしまう。


そう考えると、自分を一番理解しているのは、意外にも自分じゃないと言えるのかもしれないけれど。



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