先生の秘密


それに、誰にも同じように見える人間もまた、いないだろう。


ある人に対しては、優しくて真面目な人として通っていても、ある人に対しては、粗雑で不器用な人として通っていても不思議ではない。


結局人なんて、人に好かれないと生きていけないのだから。


他人に依存して生きる。


言い方は悪いけれど、人生を上手く切り抜けるためのコツだ。


先輩が言いたいのは、そういうことなのだろう。


「上手く説明できないけど」


「人を寄せつけないため、でしょう?」


驚いたように私の顔をマジマジと見つめられる。


違いますか、と問う間もなく、先輩はキュッと眉を寄せて下唇を噛み締め、何かを堪えるような表情に変わった。


「幻滅したでしょ」


「どうして」


「だって、私、ずるい」


はぁ?と思ったより素っ頓狂な声が出てしまい、口をつぐむ。


まさか、今までの情報で先輩からそんなことを言われるとは思わなかった。


「はぁ?って」


「何ですか、それ。誰かに何か言われたんですか?」


図星だったのか、黙ってしまった。



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