先生の秘密
「もしかして、津川くんとか…」
ゴールデンウイーク前の出来事を思い出しながら慎重に口に出すと、先輩は不思議そうな表情で津川くん?と繰り返した。
「いや、津川くんは確かに周囲の人間が思ってるほどいい人間ではないけど、むやみやたらに敵を作るようなことは言わないよ。彼はとっても器用な生き方をしているから」
ただ、敵とみなした人間には容赦ないタイプみたいだけど、と呟いた台詞には、私は気づかなかった。
「完璧な人間なんかいないって言うけれど、それこそ完璧な人間の上目線な傲慢だってことにどうして気づかないんだろうね。不公平な神様が、今更“完璧な人間”を作らない道理なんてないでしょうに。それが彼女の持論」
吐き捨てるように発した言葉は、僅かな重みを持って心臓の奥底に突き刺さった。
多分、先輩が自分をずるいと思ってしまった人物とやらの言葉なのだろう。
「アンタはずるい、それは、別にアンタが完璧だからじゃないよ。アンタが完璧ではないからだ」
す、と目を眇めて、先輩はそう続けた。