先生の秘密
グラウンドから生徒達の楽しげな声が聞こえる。
時折、鳥の鳴き声や音楽室からピアノの音が私の意識を掬い上げる。
独特な薬品の匂いがつん、と鼻腔を刺激した。
ここは、保健室か。
ゆっくりと視線を動かせば、ベッドとベッドを遮るカーテンが、涼しい風に吹かれ揺れている。
「本庄さん、起きたの?」
優しげな声が降ってくる。
所々、茶色の混じった黒髪を結い、横に垂らしたパンツスーツの女性が、私を見下ろしていた。
「ゆかりちゃん…」
「ふふ、驚いたわよー。本庄さんが倒れたって、藤島先生、物凄い剣幕で来たんだから」
そう言って優雅に微笑むのは、養護教諭の辻坂縁(ツジサカユカリ)先生だ。
縁先生は、生徒達に親身になって話を聞いてくれる優しい先生として、みんなからゆかりちゃんと呼ばれている。
それほど美人というわけではないのに、おっとりとしたその雰囲気に男女問わず人気なのだ。
「…ゆかりちゃん。どこかに行こうとしてたの?」
「大丈夫よ。もう終わらせてきたから」
いつも白衣を着ているゆかりちゃんが、珍しくパンツスーツのときは大抵、出張で出掛けるときだ。