先生の秘密
第十二章 定期テスト
「お前、帰らなかったのか?」
ゴールデンウイーク明けて一日目の補習。
数学準備室に向かった私を待っていたのは、その一言だった。
できれば来たくなかった、という言葉は飲み込んで藤島先生をちらりと盗み見る。
その表情は、本当に思っていたようで、少し心配そうに眉が寄っている。
「はい、朝はありがとうございました」
「いや、それはいいが…」
藤島先生は、何か言いたそうに中途半端に口を開けたり閉めたりしている。
多分、自分でも何が言いたいのか分かってないんだと思う。
かくゆう私も、藤島先生に言いたいことがたくさんあるのに、何から言うべきか迷っている。
「本庄」
「…っ!はい」
思わず肩を震わせて返事をする私に、先生は訝しげな表情で首を傾げた。
それからすぐにキュと眉を下げて、不器用な手つきで私の頭を優しく撫でてきた。
固まってしまって、どういう反応をしたらいいのか分からない。
何ともいえない自分の中に溢れてくる感情に、顔が赤く染まっていくのを感じる。
温かい。
ポカポカと胸が熱い。