先生の秘密


ピタ、と私に触れる直前で気配が止まった。


ゆっくりと目を開けると、驚いた表情の先生が宙に浮いた手を手持ち無沙汰に揺らしていた。


「あ…すいませ」


「悪い!」


バッ、と手を引っ込める先生は、少し焦っているようで、何故か頬がほんのり赤らんでいる。


拒絶するような態度を取ってしまった。


「あ…、違うんです!嫌じゃなくて」


あぁ…、何て言えばいいんだろう…。


て、


はた、と我に返る。


何、言い訳じみたこと考えてるんだろう。


普通、いくら担任でも友達でも簡単に触られるのは誰だって嫌だろう。


…だめだ。


何となく、これ以上考えちゃいけないような気がする。


「先生、私大丈夫です。ちょっと驚いただけですから。熱も、ないです」


「本庄、お前やっぱり…」


何か言いかけて、そのまま口を閉ざした先生に首を傾げる。


先生の顔を覗き込むと、気まずそうに伏せる目とかちあった。


「藤島先生…?」


「いや、何でもない。お前が平気ならいいんだ」


先生はそれだけ言うと、気を取り直すように咳ばらいを一つしてから、脇に寄せていた書類を何枚か引き抜いて私に渡してきた。


何も言わなくても、分かる。


数学の範囲は今日の授業で発表されたようで、休み時間に聖から教えてもらった。



もうすぐ、中間考査だ。



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