先生の秘密
「で、協力する気になったか?」
「まぁ、それくらいでしたら、別に構いませんよ」
先生は、私の返事を聞くと、フワリと優しげに微笑んだ。
その意地悪な表情とのギャップにドキリとする。
今まで年上に胸をときめかせることなんかなかったのに。
しかも、先生とは多分七、八歳差だろう。
…私としたことが、不覚だ。
一人で落ち込んでいると、先生が怪訝な顔で私を見ていた。
「あ」
と、突然何かを思い出したように先生は声を上げ、自分のスーツのポケットに手を突っ込む。
「あったあった」
ほら、と先生が差し出した手に反射的に私も掌を向けると、その上にシルバーのリングがついたネックレスが置いていた。
「これ…」
「お前朝、野郎共に絡まれたとき落としただろ」
「――…何だ、私だって分かってたんですね」
朝のいざこざについては、できるだけ変なフラグを建てないようにさっさと走って逃げてきたし、学校で会ってからも特にそういった話題は出なかったから気づかれていないものとばかり思っていたけれど。
「だから、お前と二人きりで話したくて数学担当にしたんだよ」
言う相手にとっては、何ともロマンチックな台詞なんだろうけど、残念ながら私には職権乱用の言い訳にしか聞こえない。