先生の秘密


「すいません…」


失言だと気づいたのか、津川くんは視線を落として軽く頭を下げた。

勿論、私には何のことかさっぱり分からないけれど。


「津川くん、もう帰っていいわよ」


「え、でも」


「鬼無里には、私の方から言っておくから」


津川くんは僅かに逡巡する仕種を見せて、思い出したように私を睨みつけてから、最初会ったときと同じ会釈を残して去っていった。


………。


私と先輩だけになり、気まずい。


「あの…」


「本庄さん」


「はいっ!?」


背筋を伸ばした私に、先輩は少しだけ恥ずかしそうに目を伏せる。


先輩の美貌と相俟って、かなり様になっている。


私が男なら、確かにこの一発で落ちているかもしれない。


「さっきの…、秘密にしていてね」


私の方が背は低いが、俯いた状態で見上げる形になって、上目遣いが炸裂している。


しかも、それがわざとらしくないというのだから、もう真似できない。


先生の上目遣いも可愛いと思ってしまったが、それとこれとは比べるまでもない。



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