先生の秘密
理事長から崎浜高校で教師として働いてくれないか、と話を持ち掛けられたときは、願ってもない幸運だと思えた。
それなのに、あの日、理事長室から出た俺を待ち受けていたのは、胸をえぐるような衝撃だった。
今だに、理事長が何を思って彼女を俺の案内役に抜擢したのか知るよしもないが、幸か不幸か、俺は内海に一目惚れしてしまったのだ。
笑いかけられる度に胸が苦しい。
もはや何かの病気にかかったんじゃないか、と思うくらい顔の火照りは消えてくれない。
心臓の鼓動がけたたましく鳴り響く。
これを恋だと言わずして何だと言うんだ、とお告げが頭を占める。
こんな歳になってまで、いやなってから、
酷い有様だと自嘲した。
馬鹿だ。本当に。
俺に、生徒に対して手を出す勇気も覚悟もあるわけがない。
努力を惜しまなかった俺が、唯一諦めた恋だった。
諦めるつもりだった。
始業式、俺はそう早い時間に出る必要はなかったが、何となく寝る気もおきず、車ではなく電車に乗ろうと思ってしまった。
たまたまだった。